研究内容
なぜ、情報通信を研究するのか?
情報通信は、現代社会を支える中枢神経のような存在です。自動運転、遠隔医療、気象予測、スマートシティ―あらゆる先端技術は、信頼性の高い情報通信ネットワークを前提に成り立っています。私たちの生活・経済・安全保障のすべてが、「つながること」に依存している今、情報通信はインフラを超えた「社会そのもの」であると言っても過言ではありません。
しかしこの社会の根幹には、いくつもの未解決の課題が横たわっています。
データ量は指数関数的に増え続け、通信インフラにはこれまでにない高速性・信頼性・柔軟性・省エネルギー性が求められています。自然災害、サイバー攻撃、地球規模の環境負荷――どれも、既存の通信技術だけでは対応しきれない新しい次元の問題です。
こうした現実に対して、「既存の方法に改善を加える」のではなく、「根本から原理を問い直し、新しい仕組みを創る」――それが研究の使命です。
情報通信を研究することは、すなわち、
- 世界中の人と情報を公平につなぐ、新しい社会のインフラを創造すること
- 複雑で動的なネットワークを制御し、予測し、最適化する知性を設計すること
- 技術が人間の限界を超えて、未来の生活・産業・文化を拡張する道筋を切り拓くこと
を意味します。
情報通信研究は、単に「便利な技術を開発すること」ではありません。
人と社会をつなぐ未来のかたちを、自らの手で設計する営みなのです。
研究の全体方針
情報通信研究室では、「次世代の超大容量通信に向けた基盤技術の創出」を掲げ、以下の3つの柱を中心に研究を行っています:
- 通信信号の処理による通信の高性能化
- 光信号の品質監視による通信の高信頼化
- 光スイッチ技術による通信の低消費電力化
これらはいずれも、次世代インフラ、スマート社会、持続可能な地球環境といった多様な領域に貢献する、技術的・社会的意義の高い研究テーマです。
通信信号の処理による通信システムの高性能化
研究概要
光ファイバ通信や広帯域無線通信においては、データの伝送中に発生する雑音、歪み、チャネル干渉などが通信品質に大きな影響を及ぼします。こうした信号劣化を補償し、正確に情報を復元するためには、極めて高度な信号処理が必要です。
本研究室では、以下のような課題に取り組んでいます:
- 物理モデルに基づく非線形補償と、機械学習によるパターン識別を融合した次世代信号復元アルゴリズムの開発
- 超広帯域信号に対応するリアルタイム等化処理の設計
- FPGAやGPUなどの高速デバイス上での実装と性能最適化
社会的意義
この研究は、1 Tbps超の超高速通信システムを支える中核技術であり、以下のような波及効果が期待されます:
- 遠隔医療、スマートインフラ、産業用IoTなどにおけるリアルタイム性と精度の向上
- 世界中の地域に公平な高速通信を提供する技術的基盤の確立
- データ中心社会における情報処理効率の大幅な改善と持続可能性の向上
光信号の品質監視による通信システムの高信頼化
研究概要
大規模で複雑な通信ネットワークでは、目に見えない形で劣化や障害が進行します。これに対処するには、通信状態をリアルタイムで監視し、異常を早期に検知し、予防的に対処する技術が不可欠です。
本研究室では、次のようなアプローチで研究を進めています:
- 光信号から得られるスペクトル情報や波形統計量を用いた品質評価手法の開発
- 異常パターンを識別・予測するための機械学習アルゴリズムの設計
- ネットワーク制御システムとの統合による、自律的監視・回復メカニズムの実装
社会的意義
この研究は、社会基盤の信頼性を飛躍的に高め、以下のような分野に貢献します:
- 医療・金融・交通など、通信停止が致命的となる領域における安定稼働の実現
- 将来的な自己診断・自己回復型の完全自律ネットワークへの移行支援
- グローバルスケールでのネットワーク保守の自動化と運用コストの削減
光スイッチを活用した通信システムの低消費電力化
研究概要
通信量の爆発的な増加とともに、通信機器の電力消費も深刻な課題となっています。特にデータセンタや都市部のネットワークでは、電力・冷却・設置面積の限界が技術革新の足かせになりつつあります。
本研究室では、電子信号への変換を必要としない「光スイッチ」による超低消費電力・高速通信の実現を目指し、以下の研究を行っています:
- ペタビット毎秒級の大容量を処理可能な光スイッチ素子の設計と検証
- 空間・波長・偏波といった多次元資源を活用した柔軟なスイッチングアーキテクチャの提案
- ソフトウェア制御との連携による動的経路最適化技術の開発
社会的意義
この研究は、未来の地球規模通信を支える「グリーンICT」の実現に直結します:
- データセンタやクラウドインフラの電力削減とカーボンフットプリントの大幅な縮小
- 仮想現実、AI処理、宇宙通信など超大容量アプリケーションの通信基盤確保
- 都市型インフラの小型・省エネ・高密度化による持続可能な社会設計への貢献
研究室で得られる経験と展望
本研究室では、通信システムの研究に必要なあらゆるプロセス――理論の探究から設計、シミュレーション、実装、実験、評価、発表に至るまでを、学生が主体的に取り組むことができる環境を整えています。
具体的には以下のような活動を通じて、研究者としての基礎力と応用力を身につけることができます:
- 最先端の測定機器や通信装置を用いた実験・評価
- 国内外の大学・企業・研究機関との共同研究や技術交流
- 国際会議や学術論文での成果発表と議論の経験
- 自由度の高い研究テーマ設定と、自主性を尊重する指導体制
情報通信技術は、人々の暮らしを支える“見えない社会基盤”です。
私たちは、それを設計し、磨き上げ、次世代へとつなげていく技術者・研究者を育てたいと考えています。
技術で社会を支えたい。
未来をつなぐインフラを、自らの手で設計したい。
その志を持つ皆さんと、ともに研究できることを楽しみにしています。


